MEMORANDUM

  心のためのキャンディ

◆ オリヴァー・サックスの 『火星の人類学者』(早川文庫)という本を読んでいる。ちょっと前に何軒か本屋を回ったときには見当たらなくて忘れていたら、先日たまたま入った学芸大学駅近くのブックオフの100円コーナーにあった。ついでに、同じくオリヴァー・サックスの『レナードの朝』(早川文庫) と大江健三郎の『人生の親戚』(新潮文庫) も税込み105円で購入。とっても得した気分。で、この『火星の人類学者』は、副題に「脳神経科医と7人の奇妙な患者」とあるように、サックス先生が出会った患者のなかから興味深い症例を7つ紹介したもので、そのうちのひとつ「トゥレット症候群の外科医」という章を読んでいたら、なんともステキなコトバに出会って、またまた得した気分になった。この章の主人公、ベネット博士は、

◇ わめいたり、身体をよじったり、顔をしかめたり、奇妙な動作をしたり、無意識のうちに口汚い言葉や冒瀆的な言葉を吐いたり、
(p.127)

◆ といった症状で一般的に特徴づけられるトゥレット症候群の患者で(と同時に腕の立つ外科医でもあるのだが)、無意識のうちに惹かれたコトバを何度も何度も際限なく強迫的に繰り返すというクセがあって(それは、たとえばオギンガ・オディンガという韻を踏んだ名前であったりする)、自分の気に入ったコトバをリストにまとめて大事にしている。それで、

◇ 奇妙な音や言葉に対する博士のこだわりを知っている息子たちは、いつも 「おかしな」 名前を探している。たいていは、英語になれた耳には奇妙に響く外国の名前だ。少年たちは新聞や本、それにラジオやテレビに気をつけていて、「おいしそうな」名前を見つけると、リストに加える。ベネット博士はそのリストを、「この家で、いちばん大切なもののひとつ」だと言った。リストの言葉は「心のためのキャンディ」なのだという。
(p.141)

◆ おいしそうなコトバのひとつひとつ。それは、博士にとって、なくてはならぬとっておきの「おやつ」である。おやつといってもパリっと割れるセンベイではなくて、ゆっくりと味わうべきキャンディ。心のためのキャンディ!

◆ 105円で、こんなステキなコトバを味わえるとは、ほんとに得をした。いつでもワタシは、読書しているふりをして、実はといえば、こういうコトバを本のなかに探しているだけだったりする。ワタシにとって、こうしたコトバのかずかずが、心のためのキャンディなのかもしれない。

◆ トゥレット症候群について、詳しくは、たとえば 《日本トゥレット協会》、また、《Tourette Syndrome Association, Inc.》 などを参照。

◇ Tourette Syndrome is an inherited, neurological disorder characterized by repeated and involuntary body movements (tics) and uncontrollable vocal sounds. In a minority of cases, the vocalizations can include socially inappropriate words and phrases -- called coprolalia. These outbursts are neither intentional nor purposeful. Involuntary symptoms can include eye blinking, repeated throat clearing or sniffing, arm thrusting, kicking movements, shoulder shrugging or jumping.
www.tsa-usa.org/what_is/whatists.html

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