MEMORANDUM

  筆記体のG

◆ まず、スティーヴン・ジェイ・グルードの科学エッセー 『干し草のなかの恐竜』 からの引用。

◇ 最後に、私自身の子供時代にあったことをお話しよう。第七四中等学校を卒業した一九五五年のことだ(ニューヨーク市では、中等学校にも番号がついている)。地元のバスの運転手に、混雑した都会の公共機関の従業員にしては珍しく、生徒に特別親切な人がいた。彼は学生をとても丁重に扱い、丁寧な言葉で話しかけてくれただけでなく、驚くべきことに、バスに向かって走ってくる生徒がいると、目の前でドアを閉めたりはせずに、ドアを開けたまま待ってくれていた。私は、彼の名前すら知らなかったのだが、ある朝、卒業サイン帳にサインしてくれと頼んでみた。すると彼は、乗車しようとしていた大人の通勤客を待たせたまま、サインをしてくれた(待たされた客の大半は、その出来事をおもしろがり、たった一度の若干の遅れをがまんしてくれたように記憶している)。彼は、「幸運を。ただのバス運転手。マーティー・ブラジス」 とサインした。ブラジスさん、もしまだご健在なら、遅くなりましたが、あなたの親切に対してみんなからの感謝の念を捧げたいと思います。あなたの親切はすばらしかった。
スティーヴン・ジェイ・グルード 『干し草のなかの恐竜(下)』 (早川書房,p.358-359)

◆ ついでにその原文も。

◇ I am led, in conclusion, to remember an event of my youth, as I graduated from Junior High School 74 on 1955 (middle schools also have numbers in New York City). A local bus driver had been particularly kind to us, a rarity among municipal employees in this harried city; he treated students with respect, deigned to speak with us, and even, wonder of wonders, waited when he saw us running, rather than shutting the door in our faces. I didn't even know his name, but one morning I asked him to sign my graduation autogragh book, and he kept a busload of adult commuters waiting. (Most of them seemed charmed by the incident and, for once, didn't begrudge the slight delay.) He signed his page, "Good Luck. Just a Bus Driver. Marty Blazis." Mr. Blazis, if you are still around, may I offer this belated thanks from all of us for your kindness; it mattered a great deal.
Stephen Jay Gould, Dinosaur in a Haystack (Penguin Books, p.456-457)

◆ グールドのサイン帳には、ステキな 「ただのバス運転手」 マーティー・ブラジスさんのこんなコトバが書き添えられている。

◇ A man of words and not of deeds
is like a garden full of weeds.
(有言不実行の人は、
雑草だらけの庭のようなもの。)

◆ この種のエピソードは大好きなので、ワタシにも似たようなことが何度かあったはずだと記憶をたどってみたくもなるが、さしあたって別なことを書く。

◆ ブラジスさんの書いた “Good-Luck” の文字。そのなかの大文字の “G”。ワタシはこの手書きの “G” の文字をみてなんとも懐かしい思いがした。中学校に入って、英語を習い始めると、まずはアルファベットの練習。ペンマンシップと呼ばれる練習帳を使って、ブロック体それから筆記体を書けるようにする。「続け字」(筆記体)で、自分の名前が書けるようになると、なんともうれしくて、ところかまわず自分の名前をサインしてまわる、そんな時期がだれにでもあったのではないかと思う。ワタシの場合は(左利きということもあって?)、結局のところ、努力の甲斐もなく、自分で満足できるようなキレイな筆記体を書くことができずに終わったので、そのうち、筆記体で書くことを止めてしまったのだったが・・・。

◆ ところで、この筆記体の “G” だが、ワタシはこのような 「ちょっと変わった(とワタシには思われる)」 字体で書かれた “G” の文字を、教室以外で実際に使われているのを、これまで一度も見たことがなかった。といって、アメリカ人と文通した経験があるわけでもないので、たいしたサンプルがあるわけでもないが、ときおり目にするネイティブの生の字は、きまってブロック体をくずした感じの(たいていは下手くそな)筆跡だったように思う。

◆ というわけで、「ただのバス運転手」 マーティー・ブラジスさんの肉筆の字を見て、「ああ、ホントにこんな風に “G” の文字を書くひともいたんだな」 と妙に感激してしまった次第。

◇ 「英語の筆記体ってサインや手紙に使うとカッコイイ!」 ということで、非常に人気がありますよね。しかし、いつ頃からか学校では筆記体を学習することがなくなってしまいました。そんな英語の筆記体・・・。アメリカではどういう扱いになっているのでしょうか?以前ネイティブに聞いたら、こういう返事をもらいました。ちなみに、筆記体は英語で "Cursive"、ブロック体は英語で "Print" といいます。
★Don't write in Cursive!! (Cursive is the opposite of Print.) Some people can't read cursive. I dunno why, but it's just too difficult for some people! We usually only write in cursive when signing our names on important documents.
つまり、筆記体はアメリカでも読めない(書けない)人がいるということですね。また、筆記体は、通常重要な書類にサインをする時しか使わないと言うことです・・・。

haradakun.cool.ne.jp/penpal/cursive_hikkitai.html

◆ 「しかし、いつ頃からか学校では筆記体を学習することがなくなってしまいました」って、あれれ、今ではそうなの? まったく知りませんでした。

◆ アメリカでも、学校で筆記体の練習をすることが減りつつあるらしい。こんなタイトルのニュース記事を見かけた。“Penmanship: A Dying Art?”

◇ In many classrooms, traditional cursive script is on its way out. So many students have trouble with it that teachers are increasingly adopting a simpler style known as Italic or "print cursive."
www.cbsnews.com/stories/2003/06/09/national/main557572.shtml

◆ 最後に、ブラジスさんの字は、つくづく立派だと思う。

■追記 [2006/12/23] ■

◆ 話題にした大文字の “G” の筆記体は、イギリスでは使われていないらしい。

◇ Gの大文字の筆記体(Sの大文字の筆記体の左肩をとがらせてつり上げたような文字)を読めないイギリス人の青年(大卒)に出会ったことがあります。こんな文字は英語じゃないという彼に、これはアメリカ人が使うGの筆記体だよ、と言っても、そんなことは信じられないという態度でした。(後日彼はアメリカ人に尋ねて、自分の無知を認めましたが)
www.seg.co.jp/cgi-bin/kb7.cgi?b=sss-old&c=t&id=2379

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COMMENTS (1)

タネ - 2006/10/13 21:36

大文字のG 確かに書けなくてGと大きく書いてましたよ
小文字のqがメアドにあるとたいてい これ9?って聞かれますよ

手で覚えないから単語が憶えられないのでは、
と、中学の英語教育で筆記体の習得に時間を割かないと
教育熱心な母親の意見が新聞の投書欄に掲載されてました

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